中小企業は「グループ通算制度」を導入すべきか

法人税には、グループ通算制度があります。この制度は、一定の導入効果が見込める一方で、簡単に取りやめることができません。本記事では、中小企業は「グループ通算制度」を導入すべきかという点について解説します。

01中小企業における導入効果

1-1グループ通算の概要

グループ通算制度は、完全支配関係にある企業グループ内の各法人を納税単位としたまま、法人税の計算上、グループ内の所得と欠損を通算する制度です。親法人がグループ全体の所得を一括して申告する制度ではなく、各法人がそれぞれ法人税額を計算し、申告します。

出資関係と納税単位
通算グループ(完全支配関係)
親会社通算親法人個別に申告・納税
子会社A通算子法人個別に申告・納税
子会社B通算子法人個別に申告・納税
法人税の計算上、グループ内で所得と欠損を通算納税単位はグループ全体ではなく、親会社・子会社それぞれ

1-2損益通算と欠損金

損益通算

同じ事業年度に生じた黒字会社の所得と赤字会社の欠損を通算できます。制度を利用しない場合、黒字会社は法人税を納付し、赤字会社の欠損金は将来の自社の所得との相殺に備えて繰り越します。

制度を利用すれば、赤字会社の欠損を黒字会社の所得から控除できるため、グループ全体の当期の法人税負担を抑えられる場合があります。ただし、損益通算の対象外となる欠損金や利用制限があり、会計上の赤字額がそのまま通算されるとは限りません。

欠損金

赤字会社が将来黒字になるまで時間を要する場合、単体申告では繰越欠損金を長期間利用できない可能性があります。グループ内に継続的な黒字会社があれば、当期に生じた欠損を早期に活用でき、税金の支払時期を繰り延べる効果が期待できます。

ただし、この効果は将来の欠損金利用を前倒しする側面があります。赤字会社が近い将来に十分な利益を計上する見込みであれば、長期的な税負担の差は小さくなることがあります。

地方税の取扱い

グループ通算制度による損益通算の対象は法人税です。法人住民税や法人事業税について、法人税と同じようにグループ内の黒字と赤字を直接相殺する制度ではありません。

導入効果を試算するときは、法人税だけを見て判断せず、地方法人税、防衛特別法人税、法人住民税、法人事業税および特別法人事業税まで含めた納税額と資金繰りを確認します。

1-3中小法人向け特例への影響

グループ通算制度を導入すると、単体申告では各社ごとに適用される年800万円の枠が、グループ全体で一つの年800万円枠に変わります。導入前の各社の特例適用額を確認し、損益通算による減税額と比較します。

項目単体申告グループ通算制度
適用単位各社ごとグループ全体
法人税の軽減税率各社ごとに年800万円以下の所得へ原則15%グループ全体で一つの年800万円枠を所得金額に応じて配分し、19%
交際費等の定額控除各社ごとに年800万円の限度額を利用グループ全体で一つの年800万円枠を各社の交際費等の額に応じて配分
資本金等による制限原則として各社ごとに判定資本金等1億円超の法人を含む場合は定額控除を適用できず、100億円超の法人を含む場合は接待飲食費50%損金算入も適用不可

02グループ通算の導入

2-1適用対象となる法人

対象となるのは、原則として内国法人である親法人と、その親法人による完全支配関係がある内国子法人です。外国法人が介在する場合や、投資法人、特定目的会社、清算中の法人など、対象にならない法人があります。

制度の適用を開始する場合、対象となる子法人の一部だけを選ぶことはできません。親法人との間に通算完全支配関係がある適用対象法人は、原則としてすべて通算グループに含めます。

2-2適用開始・加入・離脱の手続き

適用を受けるには、原則として適用開始事業年度の開始日の3か月前の日までに、親法人とすべての子法人が連名で承認申請書を提出します。申請前には、対象法人、株主関係、事業年度、青色申告の状況および申告体制を確認します。

通算グループが新たに会社を取得して完全支配関係が生じた場合、その法人は原則として通算グループへ加入します。反対に、株式の譲渡などにより完全支配関係がなくなれば離脱します。

加入・離脱の時期によっては、子法人のみなし事業年度が生じ、通常より短い期間の決算・申告が必要となることがあります。M&A、子会社売却、組織再編または外部資本の受入れを予定している場合は、実行日と申告期限を事前に確認します。

親法人と子法人の決算期が異なる場合には、制度の導入時にも、子法人に短い事業年度が生じることがあります。

2-3時価評価と欠損金制限

制度の開始時や法人の加入時には、一定の法人が保有する資産の時価評価や、制度適用前の繰越欠損金の切捨て・利用制限が生じる場合があります。多額の含み益を持つ不動産・有価証券や繰越欠損金がある法人は、導入前に各社の適用関係を確認し、複数年度で税負担を試算します。

また、子法人がグループを離脱する場合には、親法人が保有する子法人株式について投資簿価修正が必要となるため、将来の売却や組織再編も含めて検討します。

03導入すべきかの判断

中小企業グループにとって、グループ通算制度は常に有利な制度ではありません。黒字会社と赤字会社が継続的に併存し、完全支配関係を長期維持する予定で、各社の決算・申告体制を統一できる場合には、導入効果が期待できます。

一方で、中小企業では、軽減税率や交際費等に係る年800万円の枠をグループ全体で共有する影響が大きいです。加えて、開始時の時価評価、既存の繰越欠損金、税額控除等の影響を試算し、制度の継続性と申告・納税の事務負担を踏まえて判断することが重要です。

3-1適用の継続と取りやめ

グループ通算制度は、一度適用すると自由に取りやめることができません。取りやめには、事務負担が著しく過重になるなどのやむを得ない事情と国税庁長官の承認が必要です。

3-2申告計算と事務負担

グループ通算では、損益通算、欠損金、軽減税率、税額控除などの計算にグループ全体の情報が必要となり、各法人の事務負担が重くなります。加えて、各社の会計方針、勘定科目、決算日程および税務資料の様式が統一されていない中小企業グループでは、導入前に決算・申告体制を整える必要があります。

04まとめ

導入の可否は、損益通算による法人税の減少額と、中小法人向け特例への影響、外部専門家への報酬や税務ソフトの対応費用などの導入コストを比較して判断する必要があります。単年度だけでなく、少なくとも数年間の事業計画に基づく比較が必要です。

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