歯科医師(個人事業)の会計・税務

歯科医院には、一般歯科、小児歯科、訪問歯科、矯正歯科などがあり、診療内容や保険診療・自由診療の割合によって収益構造が異なります。

本記事では、個人事業として保険診療を中心に運営する歯科医院を対象とし、自由診療が中心の歯科医院は対象外とします。

01歯科の業界分析

1-1歯科業界の変化

2024年10月1日現在、全国の歯科診療所は66,378施設で、前年から440施設減少しています。このうち個人開設は48,667施設で全体の73.3%を占めますが、前年から855施設減少しました。一方、医療法人は17,053施設で、前年から376施設増加しています。

歯科医師数も、2022年の105,267人から2024年には103,652人へ1.5%減少しています。歯科診療所に従事する歯科医師の平均年齢は55.2歳で、60歳以上が約4割を占めます。医療施設に従事する歯科医師は、2年間で29歳以下が0.3%、30歳代が4.9%減少しています。

個人開設の診療所数と若い年代の歯科医師数が減少していることから、医院間競争だけでなく、後継者の確保と事業承継も重要な経営課題となっています。

1-2保険診療と効率的な診療体制

保険診療の収入は、窓口で受け取る一部負担金と、審査支払機関から支払われる診療報酬で構成されます。診療行為ごとの点数(1点10円)は国が定めるため、医院が価格を自由に設定することはできません。

歯科医院の経営では、歯科衛生士が予防処置、診療補助、保健指導を担い、歯科医師が診断や治療に集中できる体制を整えることが、効率的な運営につながります。診療台や予約枠に応じて役割を分担し、医院全体の診療体制を整えることが重要です。

02歯科医院の会計実務

2-1人員配置と利益の管理

本記事では、院長である歯科医師1名を中心に診療する個人事業の歯科医院を前提とします。歯科衛生士や歯科助手などのスタッフを増やして役割分担を進めることで、診療できる患者数が増え、収入の増加につながる場合があります。

医院の経営状況を確認するときは、収入だけでなく、収入から人件費、材料費、家賃などの費用を差し引いた利益を把握することが重要です。患者数や収入が増えていても、それ以上に人件費などが増加すれば、利益は減少します。

スタッフ数に比例して患者数や収入が増えるとは限りません。増員により人件費も増加するため、患者数、診療台、予約枠などに合った人員配置が必要です。

下の図は、増員により収入が増える一方、その伸びが次第に緩やかになる場合の一例です。この例では、収入と費用のバランスからスタッフ3名のときに利益が最も大きくなります。人数や金額は説明のための例であり、実際の結果は医院ごとに異なります。

患者数と対応スタッフの数から見る利益のイメージ
収入総費用利益
患者数とスタッフ数に応じた収入、総費用、利益の関係 スタッフを増やしても診療できる患者数は比例して増えないため、収入の伸びは次第に緩やかになります。総費用は増員時に大きく上がり、収入と総費用の差を上下矢印で示しています。 スタッフ増 スタッフ増 利益最大 収入・費用1日の患者数 収入総費用 15人程度25人程度35人程度 スタッフ2名スタッフ3名スタッフ4名

人員配置を検討するときは、増員による収入の増加と人件費のバランスを確認することが重要です。月ごとの患者数、収入、人件費および利益を確認し、その結果を増員や診療体制の見直しに利用します。

2-2診療報酬の未収計上

患者が窓口で支払う一部負担金は診療日に受け取りますが、審査支払機関へ請求する診療報酬は後日入金されます。会計上は、入金日ではなく診療を行った月の収入として計上し、未入金分を未収金として管理します。

診療報酬は、請求額と実際の入金額が一致しない場合があります。支払通知書と未収金残高を毎月照合し、返戻や減点があった金額を調整することが必要です。

2-3設備投資と資金繰り

診療台や画像診断装置、内装工事は、支払時に全額を経費とせず、資産として計上して耐用年数にわたり減価償却するものが多くあります。一方、購入代金は開業時や導入時に支払うため、会計上の利益と手元資金の動きは一致しません。

設備資金を借り入れた場合、借入金の元本返済額は経費になりません。会計上は減価償却費が費用となる一方、資金繰りでは元本返済を含む実際の支出を確認する必要があります。

設備を導入する際は、診療上の必要性だけでなく、増加する患者数や診療報酬で投資を回収できるかを確認します。借入金の返済額も含め、損益と資金繰りの両面から計画することが重要です。

03歯科医院における税務上の留意点

3-1社会保険診療報酬の概算経費(措置法26条)

個人の歯科医師は、一定の要件を満たす場合、社会保険診療報酬に対応する必要経費を実額ではなく概算経費率で計算できます。対象となるのは、社会保険診療報酬が5,000万円以下で、かつ、歯科医業から生ずる事業所得の総収入金額(自由診療分を含みます)が7,000万円以下の場合です。

概算経費が有利かどうかは、概算経費額と社会保険診療に対応する実際経費を比較して判断します。自由診療に対応する経費は、この特例とは別に実額で計算します。

この特例は、確定申告書に、この特例により事業所得の金額を計算した旨を記載した場合に適用されます(記載がなかったことについてやむを得ない事情があると税務署長が認める場合を除きます)。

社会保険診療報酬概算経費額の速算
2,500万円以下報酬額 × 72%
2,500万円超~3,000万円以下報酬額 × 70% + 50万円
3,000万円超~4,000万円以下報酬額 × 62% + 290万円
4,000万円超~5,000万円以下報酬額 × 57% + 490万円

例えば、自由診療の割合が高い医院や患者数の多い医院では、社会保険診療報酬または総収入金額が上限を超え、この特例を適用できない場合があります。この場合は、実際に支出した必要経費に基づいて所得を計算します。

また、人件費や設備費などの負担が大きく利益率が低い医院では、社会保険診療に対応する実際経費が概算経費額を上回る場合があります。収入金額の要件を満たしていても、概算経費が必ず有利になるとは限らないため、概算経費額と実際経費を比較して判断する必要があります。

所得が高い水準で推移する場合は、医療法人化も選択肢となります。ただし、法人化の判断は税負担だけでなく、社会保険への加入、役員報酬、事務負担、資金管理および将来の事業承継などを含めて検討する必要があります。

3-2社会保険診療報酬の源泉徴収

個人の歯科医師が社会保険診療報酬支払基金から受け取る診療報酬は、源泉徴収の対象です。一方、国民健康保険団体連合会から受け取る診療報酬は、源泉徴収の対象ではありません。支払基金からの診療報酬に係る源泉徴収税額は、原則として、その月分の金額から20万円を差し引いた残額に10.21%を乗じて計算されます。

差し引かれた源泉所得税は経費ではなく、所得税の前払いとして確定申告で精算します。

社会保険診療報酬支払基金から交付される支払調書には、年間の支払金額と源泉所得税額が記載されます。月ごとの支払通知書や入金明細を整理し、支払調書の金額と照合してから確定申告書へ記載します。

3-3個人事業税と社会保険診療報酬

個人で行う歯科医業は個人事業税の課税対象となりますが、社会保険診療報酬に係る所得は非課税です。このため、自由診療など社会保険診療以外の所得が個人事業税の対象となります。

社会保険診療とそれ以外の診療がある場合は、必要経費をその内容に応じて次のように区分します。

経費の区分処理方法
社会保険診療に直接対応する原価・経費社会保険診療報酬に係る所得の経費として、実際の金額を区分します。
自由診療等に直接対応する原価・経費自由診療等に係る所得の経費として、実際の金額を区分します。
社会保険診療と自由診療等に共通する原価・経費直接区分できない金額を、収入金額の割合で按分します。原価と経費で按分に使う収入の範囲が異なる場合があります。

すべての経費を一律に収入割合で按分するのではなく、まず資料で内容を確認できるものを直接区分し、残った共通の原価・経費を収入割合で按分します。例えば福岡県では、原価は「自由診療等収入 ÷(社会保険診療収入+自由診療等収入)」、経費は「(自由診療等収入+雑収入)÷ 総収入金額」の割合で按分し、医院独自の按分基準による区分は認めていません。按分の方法は都道府県によって異なる場合があるため、所在地の県税事務所の取扱いを確認します。

所得税の確定申告書第二表の「事業税に関する事項」の「非課税所得など」欄には、番号「8」(社会保険診療報酬等に係る所得)と、社会保険診療報酬に係る所得金額を記載します。記載する金額は、所得税の青色申告特別控除前の金額です。

個人事業税における社会保険診療報酬の非課税と、所得税における概算経費の特例は別の制度です。所得税の概算経費の特例を適用しない場合でも、社会保険診療報酬に係る所得は個人事業税の課税対象から除かれます。

一方、所得税で概算経費の特例を適用した場合、福岡県では、個人事業税の計算でも社会保険診療分の所得を「社会保険診療報酬 − 概算経費額」として計算します。具体的な計算方法は、医院の所在地の都道府県の取扱いを確認します。

3-4保険診療と自由診療の消費税

社会保険診療報酬は消費税が非課税ですが、自由診療や物品販売などは課税となります。主な収入区分ごとの取扱いは、次のとおりです。

収入の区分消費税の取扱い課税売上高
社会保険診療(患者の一部負担金を含む)非課税含めない
自由診療原則として課税含める
歯ブラシなどの物品販売課税含める
歯科用金属等の売却課税含める

自由診療、物品販売、歯科用金属等の売却などは課税売上高を構成しますが、個人で歯科医院を経営する歯科医師は、原則として前々年と特定期間の課税売上高がいずれも1,000万円以下である場合は免税事業者となり、消費税の申告は必要ありません。

インボイス発行事業者として登録した場合は、課税売上高が1,000万円以下でも消費税の申告が必要です。一方、本記事が対象とする一般患者向けの歯科診療では、患者は仕入税額控除を行わないため、通常はインボイスを必要としません。課税売上の割合が低い歯科医院では、患者への対応だけを理由に登録する必要性は低いといえます。

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