建設業には、建築・土木工事を総合的に請け負う総合工事業、足場・鉄筋・内装などの職別工事業、電気・管・電気通信などの設備工事業があり、工事内容や原価構成が異なります。
同じ工種でも、元請、一次請け、二次請けなどの受注階層によって、担当範囲、材料の支給条件、外注費の割合、現場管理に必要な費用が異なります。
本記事では主に、職別工事業・設備工事業に該当する二次請けの建設事業者を想定して解説します。
01工事別原価管理の必要性
1-1原価管理が必要な理由
建設業では複数の工事が同時に進むため、会社全体の売上と支出だけで採算を捉える「どんぶり勘定」になりがちです。この方法では、黒字工事と赤字工事が相殺され、問題のある現場を特定できません。
原価計算により差異の原因を明らかにすることで、追加工事や設計変更への対応、次回の見積り、請負金額の交渉に客観的な根拠を持たせることができます。元請・一次請けに対しても、単なる値上げの要請ではなく、実績に基づく請負金額の見直しや追加精算を交渉しやすくなります。
2025年12月に全面施行された改正建設業法では、建設業者である受注者にも、正当な理由なく通常必要と認められる原価に満たない請負代金や、工事に必要な期間と比べて著しく短い工期で契約しないことが求められています。工事別原価の把握は、適正な請負代金と工期を検討するうえでも重要です。
1-2工事ごとに原価を集計する
建設業では、工事ごとに原価を集計する個別原価計算を行います。工事番号を設け、法定の区分である材料費、労務費、外注費、経費の4区分で集計します。機械経費や現場経費は、経費の内訳として管理します。
実際にかかった原価と積算原価を比較することで、数量、仕入単価、作業時間、現場条件、追加作業などの差を把握できます。
特定の工事に直接関係する費用はその工事に計上し、複数の工事に共通する費用は、作業時間や使用量などを基準に振り分けます。正確に集計するには、発注、納品、勤怠、外注請求、経費精算の段階で、共通の工事番号を記録することが必要です。
個別原価計算には一定の手間がかかりますが、赤字工事の早期把握や請負金額の交渉を通じて、利益の確保・改善につながります。
02建設業会計の実務
2-1建設業会計の用語
建設業会計では、一般的な商業・サービス業とは異なる勘定科目を使用します。まず、建設業会計で使用する主な用語を確認します。
| 区分 | 用語 | 意味 |
|---|---|---|
| 収益 | 完成工事高 | 完成・引渡しした工事の売上や、工事進行基準により計上する出来高相当額です。一般企業の「売上高」に相当します。 |
| 費用 | 完成工事原価 | 完成工事高に対応して費用に計上する材料費、労務費、外注費などです。 |
| 資産 | 完成工事未収入金 | 売上に計上したものの、まだ回収していない工事代金です。一般企業の「売掛金」に相当します。 |
| 資産 | 未成工事支出金 | 完成していない工事にかかった材料費、労務費、外注費のほか、その工事のために支払った前渡金・前払金などを、一時的にまとめておく科目です。 |
| 負債 | 未成工事受入金 | 工事の完成前に受け取った着手金や中間金です。一般企業の「前受金」に相当します。 |
| 負債 | 受注損失引当金 | 工事原価総額が請負代金を上回り、損失が見込まれる場合に、その見込額を計上する引当金です。 |
未成工事支出金に、工事に直接関係しない費用や回収が見込めない損失を含めると、工事原価と利益を正しく把握できなくなります。
2-2工事収益の認識
建設工事は決算期をまたぐことがあります。中小企業の会計に関する指針では、進捗部分について成果の確実性が認められる場合は工事進行基準を適用し、その要件を満たさない場合は工事完成基準を適用することとしていますが、多くの中小企業では、工事の進み具合や見積原価を継続して管理する必要があるため、工事進行基準を採用するケースは多くありません。
| 方法 | 売上・原価の計上 | 実務上の特徴 |
|---|---|---|
| 工事完成基準 | 工事が完成し、引渡しを行った時点でまとめて計上します。 | 処理は比較的分かりやすい一方、完成まで損益に工事の進み具合が反映されません。 |
| 工事進行基準 | 工事の進み具合に応じて計上します。 | 見積原価と実際原価を継続して管理し、見積りが変わった場合は採算の見込みも見直します。 |
2-3工事原価の集計方法
未完成工事の原価を集計する実務上の呼び方として、P/L法とB/S法があります。正しく処理すれば最終的な損益は同じですが、日々の仕訳が異なります。
| 集計方法 | 日々の処理 | 決算・工事完成時の処理 |
|---|---|---|
| P/L法 | 材料費、労務費、外注費などを発生時に費用として記録します。 | 決算時に未完成工事分を未成工事支出金へ振り替えます。 |
| B/S法 | 工事が完成するまで、原価を未成工事支出金に集計します。 | 工事完成時に完成工事原価へ振り替えます。 |
複数の現場を管理する場合は、工事ごとの原価を継続して把握しやすい方法を選ぶことが重要です。
2-4工事別原価を管理する方法
工事別原価は、表計算ソフト、一般的な会計ソフトの補助科目、建設業会計ソフトなどで管理できます。工事件数や入力担当者が少ない場合は簡易な方法でも対応できますが、工事件数が増えると、二重入力や照合作業、補助科目の増加により管理が複雑になります。
建設業会計ソフトは、会社全体の会計と工事別原価を一つの仕組みで管理しやすい一方、利用料金や導入時の設定、入力ルールの整備が必要です。工事件数、管理したい情報、既存の業務フローを踏まえて選択します。
03建設業における税務上の留意点
3-1一人親方への支払いの取扱い
二次請けの建設事業者では、人手の確保や工事量への対応のため、一人親方に業務を依頼することが多くあります。一人親方への支払いについては、以下の点に留意する必要があります。
外注費と給与の区分
外注費か給与かは、契約書の名称ではなく、①ほかの人が作業を代替できるか、②作業時間・場所・方法について指揮監督を受けるか、③完成前の成果物の滅失や手直しなどの事業上のリスクを誰が負担するか、④材料・用具を誰が用意するかなど、実際の働き方に基づいて総合的に判断します。実態が雇用に近い場合は給与となり、仕入税額控除はできず、所得税の源泉徴収が必要です。
インボイスの登録状況
一人親方が適格請求書発行事業者の登録を受けていない場合、原則課税では、支払額に含まれる消費税相当額の全額を仕入税額控除できません。経過措置による控除割合は、次のとおりです。
| 2023年10月1日~ 2026年9月30日 | 2026年10月1日~ 2028年9月30日 | 2028年10月1日~ 2030年9月30日 | 2030年10月1日~ 2031年9月30日 | 2031年 10月1日~ |
|---|---|---|---|---|
| 80% | 70% | 50% | 30% | 控除不可 |
| ※ 2026年10月1日以後に開始する課税期間では、一の未登録事業者からの課税仕入れが年1億円(税込み)を超える部分に経過措置を適用できません。2024年10月1日から2026年9月30日までに開始する課税期間では、上限は10億円です。 | ||||
控除割合が下がるほど控除できない金額が増え、発注者が工事原価として負担する金額も増加します。控除できない金額は、工事原価に含めて管理します。
一人親方への外注費の仕入税額控除の時期
一人親方への外注費は、日当単位で作業を依頼することが多いため、原則として各作業日に役務の提供を受けたものとして、その作業日の属する課税期間に仕入税額控除を行います。支払日や請求書の発行日で判定するものではありません。一方、特定の工事や工程の完成を目的とする請負契約の場合は、目的物の引渡しまたは工程が完了した日の属する課税期間に控除します。これらの外注費を未成工事支出金として処理し、自社が請け負った工事の引渡し時にまとめて控除する方法も、継続適用を条件として認められています。
3-2作業くずの取扱い
建設現場で生じた電線や金属くずの売却は、担当者個人の口座への入金や、会社の収入への計上漏れが税務調査で確認されやすい項目です。原則として、作業くずの評価額は完成工事原価から控除し、期末に保有するものは見積価額等で貯蔵品に計上します。ただし、軽微なものは売却時に雑収入として処理でき、著しく少額なものは備忘価額による評価が認められる場合があります。売却代金は会社の収入であり、消費税の課税売上げに該当します。
3-3工事進行基準の強制適用
法人税では、請け負った工事が「長期大規模工事」に該当する場合、工事進行基準による収益・費用の計上が強制されます。長期大規模工事とは、原則として次のすべてを満たす工事です。
| 判定項目 | 要件 |
|---|---|
| 工事期間 | 工事の開始から引渡しまでが1年以上 |
| 請負代金 | 10億円以上 |
| 支払条件 | 請負代金の半分以上を、引渡しから1年を過ぎた後に支払う契約ではない |
原則として、長期大規模工事に該当するかは契約ごとに判定します。ただし、実質的に一つの工事を複数の契約書に分けている場合は、工事全体で判定されます。二次請けでは請負代金が10億円以上となるケースは多くありませんが、大型工事や共同企業体(JV)に参加する場合は確認が必要です。
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