富裕層・企業オーナーは、一定の場合、所得税の申告書に加えて財産債務調書・国外財産調書の提出が必要となります。本記事では、これらの調書の提出要件や記載対象などについて解説します。
01制度の変遷
1-1制度の変遷
財産債務調書の創設前も、「財産及び債務の明細書」の提出義務がありましたが、提出に対する直接の罰則はありませんでした。
平成27年度改正では、提出対象を所得要件と財産要件の双方を満たす人に絞る一方、記載事項を充実させ、加算税の軽減・加重措置を伴う財産債務調書制度へ移行しました。
02提出要件
財産債務調書と国外財産調書は、対象者と判定に用いる財産の範囲が異なります。主な違いは次のとおりです。なお、財産債務調書の2,000万円の所得基準は、所得税の確定申告書を提出する必要がある方等が前提となります。
| 確認項目 | 財産債務調書 | 国外財産調書 | ||
|---|---|---|---|---|
| 所得基準 | 財産基準 | 所得基準 | 財産基準 | |
| 提出要件 | 退職所得を除く各種所得金額の合計額が2,000万円を超える | 総財産が3億円以上 | 所得基準なし | 国外財産の合計額が5,000万円を超える |
| 国外転出特例対象財産が1億円以上 | ||||
| 所得基準なし | 総財産が10億円以上 | |||
| 対象となる財産 | 国内外の財産・債務 | 国外財産 | ||
| 相続開始年 | 相続・遺贈により取得した財産・債務は記載せず、提出義務の判定でも総財産の価額から除外できます。 | 相続・遺贈により取得した国外財産は記載せず、提出義務の5,000万円判定でも除外できます。 | ||
| 判定時点 | その年の12月31日 | |||
| 提出期限 | 翌年6月30日 | |||
03財産債務調書の留意点
見積価額の算定
財産債務調書には、国内外の財産について、種類、用途、所在、数量、価額などを記載し、財産債務調書合計表を添付します。財産の価額は、その年の12月31日における「時価」または「見積価額」によります。財産評価基本通達に定める方法で評価した価額を用いることもできます。
国税庁FAQで示されている主な見積価額の算定例は、次のとおりです。
| 財産の種類 | 見積価額の主な算定例 |
|---|---|
| 土地 | 固定資産税評価額、取得価額を基に価額の変動を合理的に見積もった金額、または翌年1月1日から提出期限までに譲渡した場合の譲渡価額 |
| 建物 | 土地と同様の方法のほか、業務用以外の建物は、取得価額から経過年数に応ずる償却費を控除した金額 |
| 預貯金 | 12月31日の預入高。満期前の定期預金等は、預入元本の金額としても差し支えありません。 |
| 上場有価証券 | 金融商品取引所等が公表する12月31日の最終価格等 |
| 非上場有価証券 | 12月31日の売買実例価額、提出期限までの譲渡価額、発行法人の帳簿上の純資産価額に持株割合を乗じた金額など。これらによれない場合は取得価額 |
| 貸付金・未収入金 | 12月31日における元本の額 |
| 書画骨とう・貴金属類 | 12月31日の適正な売買実例価額、提出期限までの譲渡価額、または取得価額 |
| 保険に関する権利 | 12月31日に解約した場合に支払われる解約返戻金の額 |
国外転出特例対象財産
「国外転出特例対象財産」とは、国外転出時課税の対象となる有価証券等、未決済信用取引等および未決済デリバティブ取引に係る権利をいいます。非上場株式も有価証券に含まれるため、評価額の高い自社株を保有するオーナー家の株主は注意が必要です。
04国外財産調書の留意点
| 確認事項 | 取扱い |
|---|---|
| 国外財産の所在 | 財産の種類ごとに判定します。不動産はその所在地、預貯金は受入れをした金融機関の営業所等、口座管理されている有価証券は口座を開設した金融商品取引業者等の営業所等、貸付金は債務者の住所または本店所在地などにより判定します。 |
| 国内支店の外貨預金 | 外貨建てであっても、国内にある金融機関の営業所等で受け入れられた預貯金は国外財産に該当しません。通貨ではなく、受入営業所等の所在地で判定します。 |
| 外貨の円換算 | 原則として12月31日の最終の対顧客直物電信買相場(TTB)またはこれに準ずる相場で換算します。同日に相場がない場合は、同日前の最も近い日の相場を使用します。 |
| 共有財産 | 持分が定まっている場合は持分であん分し、持分が明らかでない場合は各共有者の持分が等しいものとしてあん分します。 |
05加算税の軽減措置と加重措置
期限内に提出した調書へ対象財産を適正に記載している場合は、その財産に関する所得税・相続税の申告漏れ部分について、過少申告加算税・無申告加算税が5%軽減されます。
5-1相続税
| 対象となる調書 | 軽減措置 | 加重措置 |
|---|---|---|
| 財産債務調書 | 対象財産に関する申告漏れ部分の過少申告加算税・無申告加算税を5%軽減 | 加重措置なし |
| 国外財産調書 | 対象となる国外財産に関する申告漏れ部分の過少申告加算税・無申告加算税を5%軽減 | 期限内の提出がない場合や対象となる国外財産の記載がない場合などは、過少申告加算税・無申告加算税を5%加重 ただし、死亡した方に係る相続税の申告漏れは、加重措置の対象外 |
| 税務署から求められた国外財産に関する書類を指定期限までに提示・提出しなかった場合は、軽減措置の適用なし | 税務署から求められた国外財産に関する書類を指定期限までに提示・提出しなかった場合は、加重割合を5%から10%へ引上げ ただし、死亡した方に係る相続税の申告漏れは、加重措置の対象外 |
5-2所得税
| 対象となる調書 | 軽減措置 | 加重措置 |
|---|---|---|
| 財産債務調書 | 対象財産に関する申告漏れ部分の過少申告加算税・無申告加算税を5%軽減 | 期限内の提出がない場合や対象財産の記載がない場合などは、過少申告加算税・無申告加算税を5%加重 ただし、死亡した方に係る所得税の申告漏れは、加重措置の対象外 |
| 国外財産調書 | 対象となる国外財産に関する申告漏れ部分の過少申告加算税・無申告加算税を5%軽減 | 期限内の提出がない場合や対象となる国外財産の記載がない場合などは、過少申告加算税・無申告加算税を5%加重 ただし、死亡した方に係る所得税の申告漏れは、加重措置の対象外 |
| 税務署から求められた国外財産に関する書類を指定期限までに提示・提出しなかった場合は、軽減措置の適用なし | 税務署から求められた国外財産に関する書類を指定期限までに提示・提出しなかった場合は、加重割合を5%から10%へ引上げ ただし、死亡した方に係る所得税の申告漏れは、加重措置の対象外 |
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