不動産賃貸業の法人成り

不動産賃貸業の法人成りでは、個人が所有する賃貸建物を法人へ移し、法人が賃貸収入を得る形に組み替える方法がよく用いられます。ただし、法人を設立するだけで税負担が軽くなるわけではありません。

建物の売却に伴う譲渡所得・消費税・登記費用、個人所有の土地と法人との貸借関係、社会保険、相続時の株式評価まで一体で検討する必要があります。本記事では、法人成りの主な効果と注意点を解説します。

01法人成りの基本的な形

不動産賃貸業の法人成りでは、個人が所有する賃貸建物を法人へ売却し、土地は個人が引き続き所有して法人へ貸し付ける形が一般的です。建物を法人所有とすることで、その後の賃貸収入と建物に係る費用は原則として法人に帰属します。

土地まで法人へ売却すると、土地の含み益に対する譲渡所得税や移転費用が大きくなりやすいため、建物だけを移す方法が選択されることがあります。ただし、建物だけを移すと、個人所有の土地を法人が使用する関係が生じるため、地代と借地権の取扱いを定める必要があります。

02建物を法人へ売却するときの税務

2-1個人側の譲渡所得

個人が賃貸建物を法人へ売却し、譲渡益が生じる場合は、土地・建物等の譲渡所得として分離課税の対象になります。譲渡した年の1月1日現在で所有期間が5年を超える長期譲渡所得の税率は20.315%、5年以下の短期譲渡所得の税率は39.63%です。

売却価額は、帳簿価額ではなく時価を基礎として定めます。同族関係者間の取引であるため、売却価額の根拠となる資料を残し、時価と著しく異なる価額による課税問題を避けます。

2-2消費税と移転費用

土地の譲渡は消費税の非課税取引ですが、事業用の建物の譲渡は課税取引です。売主である個人が課税事業者である場合は、建物の売却に係る消費税の申告が必要となります。法人側で仕入税額控除を受けられるかは、建物の用途や法人の課税方式によって異なります。

法人への移転時には、所有権移転登記の登録免許税、法人側の不動産取得税、司法書士報酬なども生じます。売却代金の調達方法を含め、将来の税負担軽減だけでなく、移転時に必要となる税金と資金を先に確認します。

03土地の貸借と借地権

3-1建物だけを法人へ移す場合

個人所有の土地の上に法人所有の建物がある場合、法人は個人から土地を借りて使用します。通常、土地の賃貸借で借地権が設定される地域では、借地人から地主へ権利金を支払う慣行があります。

3-2権利金の認定課税への対応

権利金を支払う慣行があるにもかかわらず、法人が個人へ権利金を支払わない場合は、法人側に権利金相当額の利益が生じたものとして課税されることがあります。対応方法として、相当の地代を継続して支払う方法や、土地を将来無償で返還する契約を結び、個人と法人が連名で「土地の無償返還に関する届出書」を提出する方法があります。

無償返還届出書を提出する場合でも、地代の金額、契約内容、株式評価への影響を確認する必要があります。契約書と届出書を作成するだけでなく、定めた地代を実際に授受し、毎期の会計処理と整合させます。

04法人成りの主な効果

4-1個人事業税への影響

個人の不動産貸付が個人事業税の対象となるかは、都道府県が定める認定基準により判定します。所得税における「5棟10室」の事業的規模の基準と、個人事業税の課税基準は同じではありません。

法人成り後も個人が法人へ土地を貸し付けるため、契約件数、貸付面積、賃料収入などによっては個人事業税の対象となることがあります。個人事業税には事業主控除もあるため、法人成り前後の所得と課税基準を具体的に比較します。

4-2社会保険への影響

法人は原則として健康保険・厚生年金保険の適用事業所となり、常勤役員が役員報酬を受ける場合は社会保険への加入を検討します。個人の国民健康保険・国民年金から切り替わると、保険料の計算基礎だけでなく、会社負担と将来の年金給付も変わります。

役員報酬を低く設定すれば必ず有利になるわけではありません。70歳以後の厚生年金、75歳以後の後期高齢者医療制度を含め、年齢、報酬額、家族の加入状況を踏まえて比較します。

4-3相続時の株式評価と納税資金

法人成り後は、法人が所有する建物そのものではなく、法人の株式が相続財産となります。株式の評価は、法人の資産・負債、利益、配当などに基づいて行うため、法人成りによって常に評価額が下がるわけではありません。

純資産価額方式では、課税時期前3年以内に取得・新築した土地や建物を、原則として通常の取引価額で評価する取扱いがあります。設立直後から評価が大きく下がることを前提にせず、相続までの期間も含めて検討します。

法人から役員報酬、地代、借入金の返済などにより個人へ資金を移す場合は、それぞれの課税関係と法人の資金繰りを確認します。納税資金の準備という目的を明確にし、毎年の受取額を計画します。

05法人成りの注意点

法人成りには、法人設立費用、税務・社会保険の手続、毎年の申告や記帳などの維持コストが生じます。建物の移転時には譲渡所得税、消費税、登録免許税、不動産取得税などが発生するため、効果を回収するまでの期間も確認します。

法人の株主構成や役員構成を誤ると、将来の配当、役員報酬、株式の贈与・相続で想定外の課税が生じることがあります。また、金融機関の承諾、賃貸借契約や管理委託契約の変更、入居者への通知が必要となる場合があります。

所得分散だけを目的に形式的な役員報酬を支給するのではなく、実際の職務内容と報酬額を対応させます。法人へ移す資産、個人に残す資産、土地の地代、売却価額、資金調達を一つの計画として設計することが重要です。

06まとめ

不動産賃貸業の法人成りは、所得税と法人税の税率差だけで判断するものではありません。建物の移転課税、土地の借地権、個人事業税、社会保険、株式評価および維持コストを含めた総額で比較します。

特に建物だけを法人へ移す場合は、売却価額と資金調達に加え、土地の賃貸借契約、地代、無償返還届出の要否を実行前に整理します。

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