ミニマムタックス(富裕層税制)

2023年度税制改正により、「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置」が創設され、2025年分以後の所得税から適用されています。本記事では、一般に「ミニマムタックス」または「富裕層税制」と呼ばれるこの制度(以下、「ミニマムタックス」といいます。)を解説します。

01ミニマムタックスの概要

1-1導入の背景

所得税は累進税率を採用しているため、基本的には所得が増えるほど税率も高くなります。一方、株式や土地・建物などの譲渡所得には、給与所得や事業所得とは別に一定の税率で課税されるものがあります。

本来、累進税率のもとでは、所得が高いほど所得税の負担率も高くなるはずです。しかし、高所得者ほど株式等の譲渡所得が所得全体に占める割合が大きくなる傾向があり、所得が1億円を超えるあたりから所得税の負担率が低下する状況がみられます。これが、いわゆる「1億円の壁」です。

このような所得税負担の不均衡を是正し、税負担の公平性を確保する観点から、極めて高い水準の所得がある人に一定の税負担を求める仕組みとして本制度が導入されました。

1-2制度の概要

ミニマムタックスは、一定の方法で計算した基準所得金額から特別控除額を差し引き、所定の税率を乗じた金額と、通常の方法で計算した基準所得税額を比較する制度です。前者が後者を上回る場合は、その差額に相当する所得税が追加で課税されます。

2025年分の所得税から適用され、2026年度税制改正により、2027年以後は特別控除額と税率が変更されます。

項目2026年まで2027年以後
対象年分2025年分・2026年分2027年以後
特別控除額3億3,000万円1億6,500万円
税率22.5%30%
比較対象額(基準所得金額-3億3,000万円)×22.5%(基準所得金額-1億6,500万円)×30%

基準所得金額とは、総所得金額と分離課税の各種所得金額を合計したもので、申告不要を選択した金融所得を含み、NISA等の非課税所得や、預貯金の利子など源泉分離課税の対象となる所得は含まれません。

また、損失の繰越控除や土地等の特別控除は適用後の金額で計算するため、「合計所得金額」とは異なります。

基準所得税額とは、確定申告不要制度を適用する所得を除いて通常の方法で計算した所得税額と、確定申告不要制度を適用した所得に係る源泉徴収税額を合計した金額です。復興特別所得税を含みます。

02税額計算と影響額

以下は制度の違いを示すための単純化した例(金額は表示単位未満を四捨五入)であり、実際の計算では所得の種類、損失の繰越控除、各種特例などを確認する必要があります。

前提
① 総合所得と税額約4,105万円(税額)=(10,000万円(総合所得)×45%-479.6万円)×102.1%
② 金融所得と税額約29,099万円(税額)=190,000万円(金融所得/申告不要を選択)×15.315%
③ 基準所得金額200,000万円=10,000万円(総合所得)+190,000万円(金融所得/申告不要を選択)
④ 基準所得税額約33,203万円=①+②
追加負担額の比較
計算項目2026年まで2027年以後増減
⑤ 比較対象額(200,000万円-33,000万円)×22.5%=37,575万円(200,000万円-16,500万円)×30%
=55,050万円
+17,475万円
⑥ 判定上の差額約4,372万円
⑤-④
約21,847万円
⑤-④
+約17,475万円
⑦ 追加負担額約4,463万円
⑥×102.1%
約22,305万円
⑥×102.1%
+約17,842万円

総合課税の課税所得1億円と金融所得19億円が同じ場合、ミニマムタックス導入前と比較した追加負担額は、2026年までは約4,463万円、2027年以後は約2億2,305万円です。2027年以後は、2026年までと比較して約1億7,842万円増加します。

03申告書の作成

申告書の作成では、通常の確定申告の計算に加えて、基準所得金額と基準所得税額を集計し、本制度の適用判定を行います。確定申告不要制度を選択しようとする所得の扱いが、特に分かりにくい点です。

3-1対象となる所得と税率

本制度の適用判定に用いる基準所得金額には、通常の確定申告に記載する所得だけでなく、確定申告不要制度を選択しようとする一定の所得も含まれます。主な所得と通常の所得税率の比較は次のとおりです。

所得区分所得税本税の税率2026年まで2027年以後
総合課税累進税率
5%~45%
22.5%30%
株式等の譲渡所得15%
上場株式等の配当所得
(申告不要を含む)
15%
特定公社債等の利子
(申告不要を含む)
15%
不動産の短期譲渡所得30%
不動産の長期譲渡所得15%
退職所得最高22.5%相当
(原則として2分の1課税)
非課税所得対象外基準所得の対象外
預貯金の利子
(源泉分離課税の対象)
15%
一般公社債等の利子
(源泉分離課税の対象)
15%

3-2申告書の流れ(2026年までの例)

申告書第一表と「適用判定表兼税額計算書」は次の順で作成します(02の2026年までの例を使用)。

1 申告書第一表で仮計算申告不要を選択しようとする金融所得を除き、通常の所得税額約4,105万円を計算します。
→
2 計算書で適用判定基準所得金額20億円、基準所得税額約3億3,203万円を用いて判定し、差額約4,372万円を求めます。
→
3 申告書第一表へ反映すべての所得と加算額を反映し、復興特別所得税を再計算します。最終的な追加負担額は約4,463万円です。
確定申告書第一表「税金の計算」
記載項目特例適用判定前特例適用判定後備考
課税される所得金額㉛G31100,000,000円2,000,000,000円特例適用判定後は申告不要を選択した所得を含む
所得税額
(総合所得・金融所得の合計)
㉜G3240,204,000円325,204,000円
省略
差引所得税額㊷G4240,204,000円325,204,000円特例適用判定後は計算書⑳の金額
災害減免額㊸G43――
再差引所得税額(基準所得税額)㊹G4440,204,000円368,920,716円特例適用判定前:㊷-㊸
特例適用判定後:計算書㉔の金額
復興特別所得税額
(㊹×2.1%)
㊺G45844,284円7,747,335円
所得税額及び復興特別所得税の額
(㊹+㊺)
㊻G4641,048,284円376,668,051円
㊼・㊽ 省略
源泉徴収税額㊾G49―290,985,000円特例適用判定後:判定前の㊾+計算書⑰の金額
申告納税額㊿G5041,048,200円85,683,000円100円未満切捨て
増減――特例適用判定前から44,634,800円増加

①申告書第二表の「特例適用条文等」欄に「措法41の19」と記載する必要があります。
②特例適用判定後は、確定申告不要制度は利用できないため、申告不要を含めたすべての所得を申告書に記載する必要があります。
③「特定の基準所得金額の課税の特例に関する適用判定表兼税額計算書」は、申告書とともに提出します。

特定の基準所得金額の課税の特例に関する適用判定表 兼 税額計算書極めて高い水準の所得に対する負担の適正化に係る措置
1 基準所得金額の計算
記載項目金額備考
省略
基準所得金額⑬G132,000,000,000円総合所得100,000,000円+金融所得1,900,000,000円
2 特例適用判定・税額の計算
記載項目金額備考
特例適用判定⑬-3.3億円⑭G141,670,000,000円特別控除後の基準所得金額
⑭×22.5%⑮G15375,750,000円比較対象額
通常の「所得税及び復興特別所得税の額」⑯G1641,048,284円特例適用判定前の第一表㊻「所得税額及び復興特別所得税の額」
申告不要制度を適用しようとする所得に係る源泉徴収税額⑰G17290,985,000円 
租税特別措置法第41条の19の基準所得税額(⑯+⑰)⑱G18332,033,284円申告不要を適用しない場合の所得税及び復興税の額
⑮-⑱⑲G1943,716,716円特例適用判定(赤字となる場合特例の適用なし)
税額の計算特例適用の場合の所得税の額(申告書第一表㊷欄の金額)⑳G20325,204,000円特例適用判定後の第一表㊷から転記
(申告不要を含む税額)
⑳×2.1%㉑G216,829,284円復興特別所得税額
(申告不要制度を適用しないで計算した)
租税特別措置法第41条の19の基準所得税額(⑳+㉑)
㉒G22332,033,284円 
⑮-㉒㉓G2343,716,716円加算する金額
⑳+㉓㉔G24368,920,716円申告書第一表㊹欄へ転記

上表は国税庁様式の項目順を基に、02の数値と2026年までの制度を使って記事上で再構成したものです。金額は円単位で記載しています。正式な申告では、その年分の所定様式を使用します。

04適用対象者と検討事項

4-1想定される適用対象者

株式等の配当・譲渡所得が多額となる人のほか、不動産の売却やM&Aによる非上場株式の譲渡などで、多額の譲渡所得が生じる人が対象として想定されます。所得の種類と通常の税負担によって、追加課税の有無は異なります。

2027年以後は、特別控除額の引下げと税率の引上げにより、退職所得等も追加課税の対象となる可能性があります。

4-2多額の所得が見込まれる場合の検討

多額の所得が見込まれる場合は、取引の実行時期を年度で分けることや、所得の種類を変更した場合の税負担の違いを事前に試算します。たとえば、金融所得の一部を一般公社債等の利子へ組み替えた場合には、原則として源泉分離課税となるため、基準所得金額の対象外となります。ただし、同族会社が発行した社債の利子で、その同族会社の一定の株主やその親族等が受け取るものは総合課税となるため、基準所得金額に含まれます。

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