個人事業者と消費税

個人事業者の消費税は、まず納税義務の有無を確認し、課税事業者に該当する場合は、適用する計算方法により申告・納付を行います。本記事では、納税義務、計算方法、届出およびインボイス登録について解説します。

01消費税の全体像

次のフローで、納税義務の有無と計算方法を順に確認します。

個人事業者の消費税を確認するフロー
No.確認すること判定結果
納税義務の確認
1基準期間または特定期間の判定により、納税義務が生じますか?→
(YES)
課税事業者
計算方法を確認
↓(NO)
2相続の特例により、納税義務がありますか?→
(YES)
課税事業者
計算方法を確認
↓(NO)
3過去の高額特定資産等の取得により、事業者免税点制度の適用が制限されていますか?→
(YES)
課税事業者
原則課税
↓(NO)
4適格請求書発行事業者として登録を受けていますか?→
(YES)
課税事業者
登録日以後を申告
↓(NO)
5課税事業者選択届出書を提出していますか?→
(YES)
課税事業者
計算方法を確認
↓(NO)
免税事業者
課税事業者の計算方法
6インボイス登録に伴う経過措置の適用要件を満たしますか?→
(YES)
期間に応じて
2割・3割特例
↓(NO)
7高額特定資産等により、簡易課税制度の選択が制限されていますか?→
(YES)
原則課税
↓(NO)
8簡易課税選択届出書を提出し、適用要件を満たしていますか?→
(YES)
簡易課税
↓(NO)
原則課税

4で「YES」となる場合は6へ進み、インボイス登録に伴う経過措置を確認します。1・2または5で「YES」となる場合は、6を飛ばして7へ進みます。届出の適用時期などフローで表しにくい要件は、以下の各項目で確認します。

02納税義務の判定

2-1基準期間の課税売上高

個人事業者は、前々年を「基準期間」とします。基準期間の課税売上高が1,000万円を超える場合、その年は課税事業者となります。1,000万円以下であれば原則として免税事業者ですが、他の判定項目も確認する必要があります。

新たに開業した個人事業者は基準期間がないため、開業年は原則として免税事業者となります。ただし、課税事業者を選択した場合やインボイス登録を受けた場合などは、納税義務が免除されません。

2-2特定期間の判定

基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも、前年1月1日から6月30日までの課税売上高が1,000万円を超える場合、納税義務は免除されません。

特定期間の判定では、課税売上高に代えて給与等支払額の合計額を用いることができます。いずれを用いるかは納税者が選択できます。

2-3相続により事業を承継した場合

相続により事業を承継した場合は、被相続人の課税売上高を基に判定する特例があります。相続人自身の基準期間の課税売上高が1,000万円以下でも、納税義務が免除されないことがあります。

2-4課税事業者を選択した場合

免税事業者が自ら課税事業者となることを選ぶ場合は、「消費税課税事業者選択届出書」を提出します。原則として適用を受ける年の前年12月31日までに提出し、翌年から課税事業者となります。開業年から適用を受ける場合は、その年の12月31日までに提出します。

選択後は原則として2年間継続します。基準期間の課税売上高が1,000万円を超えるなど、選択によらず課税事業者となる場合に提出する「消費税課税事業者届出書」とは別の手続きです。

納税義務は年ごとに判定するため、課税売上高、届出、インボイス登録および相続の状況を毎年確認します。

03簡易課税制度の選択

簡易課税は、実際の仕入税額ではなく、売上げに係る消費税額とみなし仕入率を用いて納付税額を計算します。そのため、常に原則課税より有利になるとは限りません。実際の仕入率、事業区分、設備投資の予定などによって結果が変わるため、選択前に両方の計算方法を比較します。

3-1適用要件

基準期間の課税売上高が5,000万円以下で、「消費税簡易課税制度選択届出書」の効力が生じている課税期間は、簡易課税制度を適用できます。売上げに係る消費税額と事業区分ごとのみなし仕入率を用いて納付税額を計算します。

届出後は原則として2年間継続して適用します。高額特定資産等の取得により簡易課税制度の選択が制限される期間もあるため、適用前に届出状況と取得資産を確認します。

3-2みなし仕入率

事業区分主な事業みなし仕入率
第1種事業卸売業90%
第2種事業小売業等80%
第3種事業製造業、建設業等70%
第4種事業他の事業区分に該当しない事業60%
第5種事業運輸通信業、金融・保険業、サービス業等50%
第6種事業不動産業40%

3-3届出時期

簡易課税を適用するには、原則として適用を受ける年の前年12月31日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出します。開業年から適用する場合は、その年の12月31日までに提出します。

免税事業者が課税期間の途中からインボイス登録を受ける経過措置を利用する場合は、登録を受けた年の12月31日までに提出すれば、その年から簡易課税を適用できます。また、2割・3割特例を適用した課税期間の翌課税期間から簡易課税へ移行する場合は、その翌課税期間に係る確定申告期限までに提出できる特例があります。

04インボイス登録と経過措置

4-1インボイス登録と登録時期

適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)とは、税務署長の登録を受け、適格請求書(インボイス)を交付できる課税事業者です。登録を受けると登録番号が通知され、氏名または名称などの登録情報が国税庁の公表サイトに掲載されます。

適格請求書発行事業者として登録を受けている場合は、基準期間の課税売上高にかかわらず、納税義務は免除されません。

個人事業者は2029年分まで、課税期間の途中から登録できる経過措置があります。登録申請書に、提出日から15日以降の日を登録希望日として記載することで、その日からインボイス発行事業者となります。この場合、消費税課税事業者選択届出書の提出は不要で、登録日から12月31日までの取引が申告の対象となります。

2024年以後の年の途中からこの経過措置により登録を受けた場合は、登録を取りやめても、登録日の属する年の翌年から登録日以後2年を経過する日の属する年まで、免税事業者に戻ることはできません。

4-2経過措置

インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者となった方には、納付税額の計算を軽減する経過措置があります。2割特例は、一定の要件を満たせば、消費税課税事業者選択届出書を提出して課税事業者となった方も対象になります。

2割特例(2026年分まで)

納付税額を、売上げに係る消費税額の20%として計算します。事前の届出は不要で、確定申告時に適用するかを選択できます。

3割特例(2027年分・2028年分)

インボイス発行事業者の登録を受けたことにより免税事業者から課税事業者となった個人事業者は、一定の要件を満たす場合、納付税額を売上げに係る消費税額の30%として計算できます。主な要件は、基準期間の課税売上高が1,000万円以下で、インボイス発行事業者の登録を受けていることです。法人は対象になりません。

4-3経過措置の留意点

課税期間の短縮

課税期間を1か月または3か月に短縮している場合は、経過措置を適用できません。

高額特定資産の取得

高額特定資産の取得などにより事業者免税点制度の適用を受けられない課税期間は、経過措置の対象外です。ただし、課税事業者選択届出書を提出せず、インボイス登録により課税事業者となった個人事業者が、高額特定資産に該当しない調整対象固定資産を取得しただけでは、経過措置の適用は制限されません。

金または白金の地金等を一般課税で仕入れ、その課税期間中の仕入金額の合計額が税抜200万円以上となる場合も、その後の事業者免税点制度が制限され、経過措置を適用できない課税期間が生じます。

なお、適用要件を満たす課税期間では、申告の都度、経過措置を適用するかどうかを選択でき、継続適用の義務はありません。経過措置を適用した課税期間の翌課税期間から簡易課税へ移行するときは、その翌課税期間に係る確定申告期限までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出できる特例があります。

05高額特定資産の制限

高額特定資産とは、一の取引単位につき税抜1,000万円以上の棚卸資産または調整対象固定資産をいいます。高額特定資産の取得は、取得した年だけでなく、その後の納税義務や計算方法にも影響します。

5-1事業者免税点制度の適用制限

簡易課税制度、2割特例または3割特例を適用していない課税期間中に高額特定資産等を取得し、その取得について仕入税額控除を受ける場合は、原則としてその後2年間、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であっても免税事業者にはならず、課税事業者として申告が必要です。

5-2簡易課税の適用制限

高額特定資産等の取得により特例の対象となった場合は、取得した課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間の初日の前日まで、「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出できません。すでに届出書を提出している場合でも、この制限期間中は簡易課税制度を適用できず、一般課税により申告します。

簡易課税制度、2割特例または3割特例を適用する課税期間中に通常の高額特定資産を取得した場合は、この取得による制限の対象にはなりません。自己建設高額特定資産については、建設等に要した原材料・経費の累計額を判定する際、簡易課税制度、2割特例または3割特例を適用する課税期間中の支出を除きます。

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