事業承継対策の一つとして、従業員持株会や中小企業投資育成会社を活用する方法があります。いずれも目的と運営体制に合えば有効ですが、単なる相続税対策として導入するのは適切ではありません。本記事では、従業員持株会や中小企業投資育成会社(投資育成会社)の導入目的と留意点を解説します。
2026年8月20日の第5回「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の資料では、第3回会議で提起された問題として、従業員持株会の固定価格と税務上の評価額が異なる場合の取扱いが整理されました。従業員の取得価額が税務上の評価額より著しく低い場合には給与課税の可能性があり、高い場合には従業員に不利益が生じるほか、退会・譲渡時の買取価格をめぐるトラブルの原因になるとされています。
さらに、2026年8月20日の第5回会議の資料では、一定の要件を満たす従業員持株会の株式を固定価格で評価し、会社の株価総額(企業価値の総額)から持株会株式の買取総額を控除した残額を基礎として、持株会以外の株式を評価する案が示されました。この案では、持株会株式を固定価格で買い取ることにより、他の株主が保有する株式の価値が相対的に上昇する点も評価へ反映されます。
2026年9月16日の第6回会議資料では、この論点が個別の検討事項として整理されました。固定価格による評価を認める要件として、持株会を通じて保有する株式であること、規約等で価格が定められていること、退会時に固定価格で買い取り、株式を持ち出せないことなどが案として示されています。
第6回までに示された内容は検討案であり、現時点で取扱いの変更が決定されたものではありません。従業員持株会を活用する場合には、固定価格を設定して終わりにせず、税務評価額との乖離や、加入・退会時の売買価格の妥当性に加え、今後の制度改正の動向も継続して確認する必要があります。
01従業員持株会
1-1概要
従業員持株会は、従業員が勤務先の株式を継続的に取得し、中長期的な資産形成を図るための福利厚生制度です。非上場会社では、オーナーが保有する株式の一部を持株会へ移すことで、株主構成を見直す方法として用いられることもあります。
1-2導入の目的
従業員の資産形成や経営参加への意識向上につながるほか、適正な価額と制度設計を前提としてオーナーの保有株式を減らすことで、事業承継時の相続税負担を抑える効果が見込まれます。
1-3導入時の留意点
非上場会社の従業員持株会では、加入時や退会時の売買価額を固定することがあります。しかし、固定価格のままでは会社の成長による株価上昇が従業員へ還元されにくく、資産形成や経営参加への意識向上という導入目的を十分に達成できません。税務上の評価額との乖離も生じるため、価格設定の合理性を継続して確認する必要があります。
従業員の入退社による株式の需給が均衡せず、退会者の株式を新規加入者や既存加入者だけでは買い取れない場合もあります。オーナー個人がその株式を買い取る場合、固定価格が税務上の評価額より著しく低いと、時価と買取価額との差額をオーナーが贈与により取得したものとみなされ、贈与税が生じることがあります。退会時の買取資金、買取りを行う者、価額の決定方法をあらかじめ規約等で整理しておくことが重要です。
02投資育成会社
2-1概要
投資育成会社は、中小企業投資育成株式会社法に基づく政策実施機関で、中堅・中小企業の株式を引き受けて自己資本の充実や成長を支援します。
2-2導入の目的
投資育成会社が第三者割当増資を引き受けることで、返済不要の資金を調達でき、自己資本の充実や対外信用の向上が期待できます。また、長期安定株主として経営の安定にもつながります。
福岡県内の投資先企業は、大阪中小企業投資育成株式会社の「投資先企業検索」で確認できます。
2-3導入時の留意点
投資後は、安定的な配当が期待されるほか、定時株主総会の開催や決算・議案等の事前説明が求められます。また、投資育成会社は原則として株式を長期保有するため、将来の譲渡や株主構成の変更には一定の調整が必要です。
第三者割当増資だけでオーナーの保有株式数が減るわけではなく、相続税負担が直ちに軽くなるとは限りません。資金調達と資本政策を主な目的として、配当負担、経営権、将来の株主構成を含めて検討する必要があります。
03まとめ
従業員持株会は福利厚生と従業員への株式移転、投資育成会社は増資による資金調達と成長支援を主な目的とする制度であり、目的や運営方法は異なります。税負担だけで判断せず、経営権、従業員との関係、配当や継続的な運営負担を含めて検討する必要があります。
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